DREAMERS AGAIN SCENE.7
「大いなるゲーム」は幕を切った・・・
昭島市内の渋滞路をスリ抜け、拝島橋から八王子インターまでペースを上げ、
中央道に乗る。小仏トンネルまでの短い区間で一気にペースを上げる
だが・・・
「げっ!何てこった!タイヤの空気圧正常なのかよ?おまけにブレーキの効きが
ブラックバードと比べたら悪すぎる!いまいち調子が出ねえ・・・」
慣れないマシンに手こずりながらも、小仏トンネルを抜け、相模湖インター・
藤野パーキングエリアと駆け抜け、上野原インターからの6車線区間に・・・
「何だよ、ひどいブレだ。何てバイクなんだ!たかだか100マイル(160km/h)でこれかよ!」
午前9時40分、笹子トンネル通過・・・・
勝沼インターを過ぎ、甲府盆地の平坦路となる。一気にフル加速をかける。
だが・・・
「なんて乗り難いバイクなんだ!ブレーキだって効かない・・・これがカタナなのか・・・」
90年代以降のマシンに乗り慣れた「彼」にとって80年代のマシンは未知の物であり、
「その感覚」では乗れないということをはっきりと思い知らされたのであった。
「おい!そんなことじゃ俺に勝てねえぞ! そうやっていつまでもビビりまくってな!」
カタナが俺を挑発している
「ちくしょう!」
諏訪湖サービスエリアで給油の為の小休止の後も、カタナと俺の「戦い」は続く。
午後0時、恵那山トンネルを通過。
「けっ、快調だぜ。路面状態が良くなってきた」
小牧から名神に入り、大津サービスエリアで給油。残り時間が少なくなってきた・・・・
真奈美の手術まで時間が無い、急げ!
京都から雨が降り始め、吹田辺りでは土砂降りとなった・・・
「やばい、タイヤが空転始めやがった!ちっとも前に進まねえじゃんかよ!」
「あ、あのう、「キリンは泣かない」っていうセリフ知ってますか?」
ある日、真奈美が突拍子も無い質問をしてきた
「何、それ?」
訳が解らなかったので真奈美に聞き返すと
「そういう口癖のバイク乗りがパパの友人にいるの。おかしいでしょ?
でも、パパの話だと深い意味があるそうなの」
「詳しくはわからないけど、弱肉強食の比喩をバイク乗りに例えてる話なんです。でも・・・・
「そういったものに立ち向かっていける「キリン」になりたいですね。わたしたちも・・・・」
神戸を過ぎると雨がやんだ。しかし、もう時間が無い・・・
「真奈美、待ってろ!このまま高松まで突っ走ってやる!」
「225km/h・・・・230km/h・・・・・・・」
メーターの針がゆっくりと真上に向かっていく・・・
姫路・龍野・赤穂と書かれた看板があっという間に後方に飛び去っていく・・・
早島ジャンクションから瀬戸大橋に入る・・
鷲羽山トンネルを抜けると太陽が出てきた。あともう少し!
瀬戸大橋を渡り切った頃、ガスタンクはリザーブに切り替わる。ぎりぎり行ける!
「おそい・・・一体どうしたんだ?あともう少しで手術が始まるというのに・・・」
真奈美の父親は苛立ちながら外でずっと待っていた・・・その時・・・
「すみませ〜ん!どこに持っていけばいいですか〜?」
バイクを降りるなりヘロヘロになった体に鞭打って駆け寄る。
「おお!待っていたぞ!さあ!こっちだ!」
真奈美の父に連れられ、主治医に持参した輸血用血液の入ったトランクを渡した・・・
間に合った!まさに映画トラック野郎の桃さんの心境だった。
だが、このあと俺は過労で倒れてしまった・・・。