伯爵、行動開始!

「ただいま・・・え!」

玄関の戸を開けるなり、外人数名が家の中にいたのを見て晶はとまどった。



「ハロー、お嬢さん。お久しぶり。私をお忘れかい?」



真っ赤なノースリーブを着たちょっと派手ないでたちの男は晶に向かってにこやかに挨拶をした。


とまどう晶は同席していた父親に問う。

「パパ、あの人は誰?」


晶の父は答える

「晶、忘れたのか?うちの会社の英国支社の支配人のドリアン・レッド・グローリアさんだぞ。

昔、イギリスに行った時遊んでもらっただろ?」

晶は驚きながら

「あ!伯爵!お久しぶりです。ジェームズさんもボーナムさんも。」

「どうしてみんな揃って日本に来たのですか?」



伯爵はにこやかに

「最近、サツマ(欧州において陶磁器をこう呼ぶ)を集めているから買い付けに来たんだよ・・・

私は美しい物が好きだ。特にサツマの繊細さに惚れたのだよ」

と晶に対して答えた。そして晶の父を呼び

「ミスターエンドウ、奥の広間を借してくれないか。部下達とミーティングをするから。」

と言い、ジェームズ君・ボーナム君を連れて奥の部屋に行った。





 一週間前のロンドン郊外、グローリア邸



「え?なんで日本ぐんだりまで行くのですか?」



ジェームズ君は怪訝な顔をして伯爵に質問する。


「これを見たまえ。ドイツの博物館が所蔵するハプスブルグ家伝来のバイオリン、

通称、マリアテレジアのストラティバリウスだ。この美しいバイオリンが欲しいのだよ。」


伯爵は続けざまに


「普段は少佐のお膝元にあるから手に入れにくいが、今回は違う。」

ボーナム君がなるほどといった顔をして質問する

「伯爵、ひょっとして、我々の行き先である長崎といえば・・・」

伯爵はにこやかに

「その通り。私の永年のビジネスパートナーであるミスターエンドウだ。彼の娘のミスアキラが、

今回、このバイオリンを演奏するんだ。千載一遇のチャンスじゃないか。」

ジェームズ君が不安げな顔をして

「少佐も来るんじゃないんですか?」

伯爵は笑いながら

「いくらなんでも来ないよ。日本までは。NATOの管轄外だし。それよりも出発の準備だ!」


   
つづく