接触(3)

段ボールにヴァイオリンの道具、楽譜、賞状など全てを詰め込み、ふぅっとひと息付く。

窓の外を眺め、何かに気付くと、さっとかがむ

晶の家の前で車が止まり、少佐が出てきた。

呼び鈴が鳴る。母親が出てきて何やら話をしている。

「まずい、あれは少佐じゃないの?」

ジェームズ君が慌てて伯爵を呼びに行く

晶はムッとして、カーテンをさっとかけた。

「止めたって言ったじゃない……」



翌日・・・

下校途中。少佐が晶を待っていた。

「せめてこのバイオリンだけでも受け取ってくれないか」

少佐はぎこちない日本語で晶に頼む。

「ごめんなさい、私、普通の女子高生になるんです」

晶はツンとすました顔をして断りの返答をする。

「女子高生?」

少佐は意味が分からず、また調べ始める。

調べている最中も晶は話し続ける。

「聴いてもらいたい人がいないから、駄目なの。だから2位なんだ」

といい、その場を立ち去った。

意味を調べ終わると少佐は困惑しながら、

「普通の女子高生だったのか……?」

とつぶやいた。



翌日・・・

いつもの友達2人と晶はテニスをしていた。今日はお出かけである。

楽しそうにテニスをしている晶を、コートの外で少佐が見つめていた……。

ショッピングをしているとき、晶はぼーっとしていた。少佐が気になるのだ。

その後、晶は一日中ぼーっとしていた。


その日の帰り。雨の降る中、また少佐が待っていた。

声をかけようとするが、子犬が足をつかんで離さない。

「ドジな探偵さんね!」

晶は微笑みながら家に入ってしまった。


「俺はいつから(探偵物語の)工藤ちゃんになったんだ・・・フン!」

車の中で少佐はつぶやき、去っていった。


次の日、学校の図書館で晶はドイツ語の辞書を取り出し、何かを調べていた――


その夜の帰り、また少佐が待っていた。

「明後日のシーボルト記念祭はどうするのだ?最後に訊いておきたい」

しかし、晶はシーボルト記念祭出演を断った。残念そうにする少佐。

晶は無言でそれを見送った。






その夜、少佐宛に部長からの国際電話があった・・・



「エーベルバッハ君、日本の女子高生はどうかね?」

部長がスケベ根性丸出しの言い方で電話をかけてきた


「部長、冗談じゃないですよ!あんな小娘の相手なんてやってられませんよ!」

少佐はキレ気味に愚痴をこぼした


「いい情報を教えてやる。遠藤家の近くの中学校の音楽室に夕方行ってみるがいい。

なんでも、彼女が中学時代想いを寄せていた転校生の少年の面影を今も追っているから

ほぼ毎日の様に通っているんだと。そこで彼女の思い出の曲であるショパンの夜想曲を

演奏していれば絶対に来る!これは命令だ!エーベルバッハ君!!」


と部長は命令口調であったがいい情報をくれた


ったく!ヘボ部長め!上司じゃなきゃアラスカに送るのに・・・」






日曜日・・・

いつもならレッスンである。しかし練習には行かない。パジャマのままだ。

テレビを付けても面白いことはなにもやっていない……が、

オーケストラを演奏している番組を見ると、急にムッとなってテレビを消した。

すると突然電話が掛かってきた。きっとあのドイツ人からだ。

「さよならって言ったじゃない……」

晶は電話を取らず、着替えて外に出た。


どこに行くでもなく街を歩き回る。すると、ある場所にたどり着いた。

「ここは・・・」

そこはコンクールの前日、少年と来た場所だ。晶の通っていた中学校が見える丘のような場所。

そこで晶は少年にコンクールの応援に来て、と頼んだのだった。


と、突然ヴァイオリンの音が中学校から聴こえてきた。しかも、それは晶と少年との思い出の曲だったのだ。

晶は驚愕の表情で中学校へ走る。思い出がダブる。少年の言葉を思い出す。



「遠藤さんはヴァイオリンを弾いているときが一番カッコいいよ」


晶ははっとした。音楽室へと走る。

「そうだ…。私、ただ楽しいからヴァイオリンを始めたのに、それなのに、いつの間にか、いつの間にか……」

音楽室の引き戸を開けた。

――そこには、少佐がいた。


晶は困惑していた。すると少佐は言った。

「ミスアキラ、調べさせてもらったよ。君が中学校の時の教師からこの曲のことを聞いたんだ。

この曲を引いたら君がここに来ると確信していたんだ」

晶は涙を流していた・・・。少佐はすかさず

「この曲を一緒に練習した「彼」の為にもシーボルト記念祭に出て欲しいんだ」

晶は泣きながら少佐に歩み寄り、ドイツ語で言った。

「エーヴェルバッハさん、私・・・シーボルト記念祭で演奏します」

晶は決心した。

自分は少年との思い出に逃げていた。だから今度は未来に向かって走ると。





晶を家に送った後、少佐はつぶやく

「あの小娘は一体何を考えているのだろう・・・・フン!」


つづく