フェスティバル(1)



 シーボルト記念祭当日・・・


長崎県警本部


「いいか、例のバイオリンの演奏はフェスティバルの最後に行われる。奴はいつやらかすかわからない。

警備の手を絶対に緩めるな!」


少佐の檄が飛ぶ。


「ところで、ウムラウト、内部の情報はどうだ?」

少佐からの問いにウムラウトは異常無しと答えた。


「よし、これから作戦を開始する!」

少佐と部下達、応援の長崎県警の機動隊が出撃する。




出島桟橋前の特設会場

長崎市長の挨拶が行われ、フェスティバルが始まる・・・

NATOの軍楽隊の演奏を皮切りに日独友好祭らしく両国らしい出し物が行われている。


「ほう、SISも来ていたとは・・・」

少佐が皮肉っぽく前にいた見るからにキザな感じの外国人に話しかけた

「悪いですか?グラバーというイギリス人の記念館がありますから・・・」

SIS(英国情報部)のロレンスも来ていたのであった。

よく周りを見ると・・・仔熊のミーシャと白熊もいた。

「KGBもか・・・とんだ諜報合戦か・・・フン!」



出演者控室

晶は不安に駆られていた・・自分に大役が果たせるのか・・・

そんな時、晶の携帯電話が鳴る

「はい、遠藤です・・・え!本当にあなたなの?!」

電話口からは懐かしい声が・・・

「エーヴェルバッハさんという方に頼まれて電話したんだ。なんでも晶が精神的に追い詰められてるから

君からのアドバイスが必要だからって・・・。」

晶は泣きながら、言葉が詰まりながらも話し続ける



舞台の袖

ウムラウトと千恵は出番を待つ。

「いよいよじゃけん。ウムラウト、あんたは大丈夫け?」



千恵の問いにウムラウトは笑いながら

「この雰囲気と緊張感が最高なのさ!この日の為にやってきたんだ。失敗はしねえぞ。」

前のバンドの演奏が終わる。司会者が千恵たちのバンド名を呼ぶ



「千恵、行くぞ!」



千恵たちのバンド「サウザンブラック」は九州インディ−ズシーンで一番人気のバンドゆえに特別に

5曲演奏となっていた。

千恵たちがステージに出るとともに盛大な歓声が響く

今回は福岡の大先輩バンド「ロッカーズ」のカヴァーが中心である

1曲目「セル・ナンバーエイト」が終わり、2曲目「ワイルドスーパーマーケット」を演奏中・・・

「千恵!殺す!」

突如、鉄パイプと花バット(釘を打ち込んだ木刀)を手にした男達が舞台に乱入してくる

「あんた、あの時の・・・」

以前、中洲でウムラウトにシメられた男達であった

舞台の上は大喧嘩になっていた。司会者も警備員もオロオロするだけで何もしない

男の一人が千恵に襲いかかろうとした時・・・ウムラウトがキレた

ウムラウトは鉄パイプで応戦しながらギターを弾き始める


そして、彼は叫んだ


「イッヒナーメヨハン(俺はヨハンだ)!」


この見事なギターセッション、そしてこの曲・・・・彼は伝説の東ドイツのバンドDDRのリーダー、ヨハンであった。



DDR・・・ホーネッカー時代末期の東ドイツで結成された反体制パンクバンド。シュタージ(東独秘密警察)に

追われつつも地下活動を行い、彼らの曲入りのカセットテープは複製され、東独全土に広がった。

1989年のベルリンの壁崩壊とホーネッカー失脚も、ゲリラギグでヨハンがアオったことで起きたのであった。



「1・2・3・4ペレストロイカ!ペレストロイカ!・・・」

ポーランドのヤロチンで遠藤ミチロウ(スターリン)・デゼルダ(ポーランドのパンクバンド)らと歌った曲である

男達も千恵やサウザンブラックのメンバーもそして観客も聞き入っていた・・・



つづく