フェスティバル(2)


ウムラウトの演奏以外静まり返っていた会場に歓声が戻ってきた


「DDR、DDR、DDR・・・」


千恵は驚いた顔をして

「あんた・・・ヨハンだったんけ・・・信じられない!」


乱入した男達は彼がどんな男なのかを知ってしまったゆえ、恐ろしくなり逃げ出した・・・



「あの野郎!余計な事をしやがったな!」

少佐は頭を抱えていた



「千恵、最後の曲だ!一緒に歌おう!」

ベルリンの壁崩壊の時にベルリンの若者達が口ずさんでいたDDRの曲を歌い始めた

「ウムラウト、いやヨハン、ありがとう!」

千恵は涙声で歌い終えた。



混乱も収まり、フェスティバルの最後を〆るマリアテレジアのストラティバリウスの演奏が始まる

晶の演奏は今までと違っていた。何かに引導されてる様にも思える

コンテストの時とは違う、迫真の演奏。

しんと静まり返る会場に晶の演奏が鳴り響く



「あのバイオリンは私にはふさわしくない。ミスアキラだからこそ生かせるのだ。少佐、あきらめるよ。」


伯爵は少佐に話しかけた


「貴様らしくないな。イギリスにでも帰るのか?」


伯爵は返す刀で答える


「別に欲しい物が出来たのだよ。すぐには帰らんよ。エロイカより愛をこめて。」

伯爵は会場を出て行く



晶が演奏を終えると盛大な拍手に埋め尽くされた・・・

舞台の袖に戻ろうとそちらを向くと・・・

「来てくれたの・・・・」

「彼」の姿を見た晶は泣き出してしまった



千恵たちの控室

ウムラウトが千恵と話している


「DDRは俺の青春だった・・・でも、東西ドイツ統一の時に事実が発覚しちまって・・・」

千恵は不思議そうな顔をして


「事実って?」


ウムラウトは言った

「実はバンドのメンバー、俺の親兄弟、み〜んなシュタージのイヌだった。俺のことを逐一報告していた。

旧東独政府の国家犯罪の裁判で全てわかったんだ。それでバンドを解散し、姿を消したのさ。」


千恵は驚きつつウムラウトを見つめていた

「じゃ、今は何しとん?」

千恵の問いにウムラウトは言う

「探偵をやってる。あまりもうかっていないけど・・・今回も実は仕事で来たんだ」

「ふ〜ん」

千恵は納得した顔をしていた



つづく