長崎より愛をこめて
 シーボルト記念祭の翌朝・・・


「しょ、少佐!大変です!テレビのニュースを見てください!」

血相を変えて部下ツェットが少佐の部屋に駆け込んで来た


「何だ?テレビで何がやってるんだ?」

少佐は寝起きで不機嫌な状態でテレビをつけると・・・・


「あのジョンブル野郎!やりやがったな!」


テレビのニュースで伊万里焼のミュージアムから古伊万里の陶磁器が盗まれた事件を現場から生中継していた。

しかも、現場には"Frome Eroica with Love"というメッセージが目立つ様に貼られていた・・・・。




遠藤家


パパ、グローリアさん達いないけどいつ帰ったの?」

晶が不思議そうな顔をして父親に問うと

「ああ、なんでも急用ができてイギリスに急いで戻らなければならなくなったので、昨日の夕方帰ったよ。」

「あ、そうだ、今度はロンドンでヴァイオリンの演奏してくれと言ってたぞ。」

晶は微笑みながら

「ロンドンか・・・また行きたいわ・・・」




ホテルで少佐はウムラウトを部屋に呼ぶ

「お前、どうするんだ?またベルリンでDDRを再結成する気なのか?」

ウムラウトはすぐさま返答した

「いえ、DDRのヨハンはもう死にました。今更自分を国家に売った奴らとバンド活動なんてできません。

もう、こんな悲劇は自分だけにしたい。だからNATOで働いているのです。」

少佐は納得した顔をして

「わかった。ただ、二度とキレるなよ。今度やったら本当にアラスカ行きだぞ!」

「今日の夜のソウル発のルフトハンザで帰国する。その前に彼女に逢ってやれ。」


少佐の粋な計らいでウムラウトは千恵に逢いに行く。


「へえ、今日で帰るの?」

千恵は驚いた

「ありがとう。色々世話になった。これからどうするんだ?」

千恵はとまどいながら

「う、うちはそのまま・・・そのまま変わらんけん・・・でも・・・」

うつむき加減で話す千恵にウムラウトは答える

「千恵もこっち(欧州)で活動してみろよ。俺はいつでも参上するぜ。」

千恵は涙声で

「うちには無理じゃけん・・・・」

ウムラウトは慰めながら話を続ける

NRJっていう全ヨーロッパで放送されてる音楽番組があるんだ。

ヨーロッパっつーのは、ダブリン(アイルランド)からウラジオストック(ロシア)までのバカでかい地域なんだ。

はっきり言ってアメリカのMTVよりもエリアは広い。それに出てみないか?新人アーチストの発掘もよく

やってるし・・・実はこの俺もNRJ出身なんだ。日本人でNRJでメジャーになった奴はまだいない。

でも、千恵ならできる!俺はベルリンで千恵とライヴをやりたいんだ!」




千恵は笑顔でウムラウトに

「ありがとう。ウムラウト、いやヨハンに逢えてうれしかった。」






福岡空港

ウムラウトは千恵を連れて来ていた


「じゃ、元気で・・・・。」

千恵は泣きそうな顔をしてウムラウトを見送る


「千恵、俺はサヨナラは言わない。またいつか逢えるさ。」

ウムラウトは千恵と握手しながら言った


搭乗口に向かうウムラウトを千恵は追いかける・・・

ウムラウトはにこやかに千恵に向かって叫ぶ

「千恵!アーレスグーテ(ごきげんよう)!」

千恵も涙をこらえて叫ぶ


「ヨハン!アーレスグーテ!








 

いつの日か友よ

また逢おう

広い世界のどこかできっと・・・

肩並べ生きた思い出が

寂しい心を支えるだろう 

君には君の僕には僕の

見知らぬ明日が待っているけど

一緒に追った夢は忘れない

広い背中にGood Luck and Goodbye

                    


                  

(水木一郎「背中にGood Luck」)



Fin